作品の経緯
 
セリフのない人形劇「バイセクル the bicycle」は、2010年より、ファミリーから大人という幅広い年齢層に向けて上演しています。
これは、日本の人形劇公演としては、ごくありふれたことなのかもしれません。しかし、「バイセクル the bicycle」という作品に限っていえば、実は日本では初めての挑戦なのです。

2004年2月、ひとみ座のスタジオ(稽古場)で、「the bicycle」は初めて公演されました。エドワード・ゴーリーのブラックユーモアに富んだ原作「優雅に叱責する自転車」と「不幸な子供」。白黒を基軸にした人形と舞台、セリフのない構成。これらより、大人が楽しむ人形劇として「the bicycle」は生まれました。さらに2007年2月には、劇場両国シアターΧでの東京公演を行いました。たくさんの観客に来ていただき、翻訳者の柴田元幸さんのアフタートーク、エドワード・ゴーリー関連の全書籍販売など、本公演にふさわしい充実した内容になりました。
   
アフタートークの様子

その2ヶ月後、香港から一通のメールが届きました。シアターΧ公演
を視察していた児童演劇フェスティバルの関係者の方からのもので、「the bicycle」を香港の子ども達に演じてほしいという内容でした。

嬉しさ半分、戸惑い半分。この作品は大人向けであると信じて疑っていなかったもので、どのように答えれば良いのか正直迷いました(無声劇などの作品の様式もそうですし、「不幸な子供」の結末を知る者としては、子どもに観てもらって大丈夫かという不安は真っ当でしょう)。視察された方と直接お話しがしたくて、香港まで演出家が出向いたりもしました。結果、演出スタイルを大きくは変えずに(字幕は広東語にしましたが)、「小学生から大人対象」として公演することが決定しました。

香港国際文化センターロビーにて

現地のスタッフさんたちと記念撮影


2008年7月、私たちは香港の子ども達の楽しそうな笑い声を耳にします。セリフのない人形劇ならではの観客が想像しながら観る空間が、確実に存在しました。「優雅に叱責する自転車」のエンブリー・ユーバートとともに冒険を楽しみ、「不幸な子供」がドライに表現する絶対的運命に悲しんだり唖然としたり。入国時に抱えていた一抹の不安は、出国時には「この経験を日本に持ち帰る」という意志に変わっていました。
  
2010年より、「バイセクル the bicycle」国内公演を再始動します。横浜の県民共済みらいホール、続いて「バイセクル」発祥の地スタジオ公演。ファミリー・学生・大人の方、幅広い年齢層による観客席での、逆輸入バージョン第一弾でした。


楽しんでいただいているという実感と、同時に感じた違和感。


メインの「優雅に叱責する自転車」で笑って心躍るなか、サブの「不幸な子供」で一時のみ唖然となる。
初演からその点では貫いてきた演出。

初演会場の観客や香港で出会った家族達に通じたその演出意図が、昨年は変わった形で伝わっていたのではないか。

そして、2011年。原作を「優雅に叱責する自転車」に絞り、より丁寧にエンブリー・ユーバートの物語を描くことにしました。
一方、ゴーリーらしいナンセンスの方向性を強めるべく、意味深で意味不明なエッセンスを倍増させました。

まるで新作のような新鮮さで、「バイセクル the bicycle」は新たな挑戦を続けています! 


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